ニコンから新たなフルサイズミラーレス「Z5IIC」が発表されました。現時点では欧米で先行して発表されており、日本ではまだ正式発表されていません。
一見するとZ5IIからEVFを取り除いて小型化したモデルですが、海外で明らかになった仕様を詳しく見ると、単純な廉価版とは少し違った狙いが見えてきます。
特に興味深いのが、名称に付けられた「C」です。ソニーはα7Cを「Compact」をコンセプトにしたシリーズとして展開しており、小型・軽量なボディにフルサイズの性能を凝縮することを大きな特徴としています。
一方、Z5IICでニコンが掲げるCは「Casual」です。同じ「C」を冠したフルサイズ機でも、ニコンはフルサイズカメラを難しく感じさせず、より気軽に使えることを重視している点に違いがあります。
その背景には、これまでAPS-C機が担ってきた入門機の役割そのものが変化している可能性があります。スマートフォンからカメラへ移行するユーザーに、まずAPS-Cを使ってもらうのではなく、最初からフルサイズへ入ってもらう。Z5IICは、そんな新しい入口を作るためのカメラに見えます。
「Compact」ではなく「Casual」であることが重要
Z5IICはEVFをなくし、ボディ上部をフラットにしています。そのため外観だけを見ると、小型化を狙ったCompactモデルと考えたくなります。しかし実際のサイズは約134×80.5×72mm、重量はバッテリーとカード込みで約620gあり、小さなフルサイズ機とまではいえません。
Z5IIは約134×100.5×72mm、約700gなので、幅と奥行きはほぼ同じです。主にEVF部分がなくなったことで高さが20mm低くなり、重量も約80g軽くなった形です。つまりボディそのものを徹底的に縮小したというより、必要な部分を整理して日常的に扱いやすい形へ変えたと考えた方が分かりやすいでしょう。
さらにZ5IICには15種類のシーンモードが用意され、AUTO撮影やイメージングレシピなど、細かな設定を理解していなくても写真の雰囲気を作りやすい機能が重視されています。
このあたりを見ると、「気軽に使えるフルサイズカメラ」という製品思想がはっきりしています。
Z5IIから削った部分は意外に多い
Z5IICとZ5IIを比べると、最も分かりやすい違いはEVFの有無です。Z5IIには約369万ドットの電子ビューファインダーがありますが、Z5IICにはありません。
SDカードスロットもZ5IIの2基から1基となり、背面にあるサブセレクター、いわゆるジョイスティックも省かれています。
もう一つ気になるのが背面モニターです。Z5IIは3.2型・約210万ドットですが、Z5IICは同じ3.2型ながら約104万ドットまで解像度が下がりました。EVFをなくしたカメラであれば、むしろモニターを強化してほしいところなので、ここはかなり思い切ったコスト削減に感じます。
約104万ドットという仕様自体はニコンでは珍しいものではなく、初代Z5やZ50II、初代Z50などでも採用されてきました。
とはいえZ50IIや初代Z5にはEVFがありますが、Z5IICにはありません。撮影時に常用する表示デバイスが背面モニターだけであることを考えると、せめてZ5IIと同じ約210万ドットを維持してほしかったところです。
その一方で、有効約2450万画素のフルサイズセンサー、5軸ボディ内手ブレ補正、273点のシングルポイントAF、最高約14コマ/秒の連写、C30による30コマ/秒撮影、4K60pやN-RAW動画など、撮影性能の中核部分はZ5IIに非常に近い内容です。
Z5IICでは基本性能を大幅に落とすのではなく、EVFやカードスロット、操作系、表示系といったハードウェアを整理することでコストを抑えようとした意図がうかがえます。
Z5IICとZ5IIの主な違い
| 項目 | Z5IIC | Z5II |
|---|---|---|
| EVF | なし | 約369万ドット、0.8倍 |
| SDカード | UHS-II ×1 | UHS-II ×2 |
| サブセレクター | なし | あり |
| 背面モニター | 約104万ドット | 約210万ドット |
| SCNモード | 15種類あり | なし |
| 被写体検出 | 10種類・魚を追加 | 9種類 |
| フィルムグレイン | あり | 現行Z5IIでは確認できず |
| RECランプ | あり | 専用RECランプなし |
| ユーザー設定 | U1/U2の2枠と報告 | U1/U2/U3 |
| パワーバッテリーパック | 対応を確認できず | MB-N11/MB-N14対応 |
| サイズ | 134×80.5×72mm | 134×100.5×72mm |
| 重量(電池・カード込) | 約620g | 約700g |
| カラー | ブラック/シルバー | ブラック |
Z5IICとZ5IIで共通する主な性能
| 項目 | 共通仕様 |
|---|---|
| センサー・画素数 | 24.5MP FX |
| 連写 | 最大14fps、C30 |
| AF測距点 | 273点/299点 |
| 低輝度AF | -10EV |
| IBIS | 5軸、中央7.5段 |
| 動画 | 4K60p、N-RAW |
スマホからAPS-Cを経由せずフルサイズへ
これまでスマートフォンからレンズ交換式カメラへ移行する場合、まずAPS-C機を選び、必要になれば後からフルサイズへ進むという流れが一つの定番でした。ニコンでもZ30やZ50シリーズなどが、その入口として重要な役割を担ってきました。
しかし近年はソニーα7CシリーズやLUMIX S9のように、最初からフルサイズを選びやすくした製品が登場しています。
Z5IICも、この「スマホからいきなりフルサイズ」という新しい入口をニコンユーザーに用意したモデルと考えると、その存在意義が見えてきます。ただしLUMIX S9とは方向性が少し異なり、S9が約486gの小型軽量ボディやREAL TIME LUT、高解像度動画など、スマートフォンやSNSとの親和性を強く意識しているのに対し、Z5IICは約620gと小型軽量化を最優先した設計ではありません。
その代わり、Z5IICにはメカニカルシャッターや外部フラッシュへの対応、長時間露光、高速連写など、一般的なスチルカメラとして使うための機能がしっかり残されています。同じ「スマホからフルサイズへ」という市場を狙いながらも、ニコンはより写真撮影を重視した入口を用意したと考えられます。
Panasonic LUMIX DC-S9

Sony α7C II ILCE-7CM2

EVFレスでもZ30とは違う、スチル主体のZ5IIC
その方向性は、ニコンが公開したZ5IICのプロモーション映像からも感じ取れます。動画制作を前面に押し出すというより、人物や日常の光景、風景などをフルサイズならではのボケや描写で残す場面が中心で、Z5IICをスチル機として訴求しようとする意図が読み取れます。4K60pやN-RAWなど動画機能は充実していますが、製品全体の見せ方は「動画クリエイター向けフルサイズ」より、「スマートフォンから本格的な写真撮影へ進みたい人のためのフルサイズ」に近い印象です。
ニコンには同じEVFレスの入門機としてZ30がありますが、Z30は動画やVlogを重視したDX機なので、もしZ5IICがその思想をそのままフルサイズ化したモデルなら、「Z3」のような別シリーズとして展開する考え方もあったでしょう。
それでも実際にはZ5IICと名付けられました。ニコンはこのモデルをZ30系の動画機ではなく、Z5IIの基本性能を受け継ぎつつ、初心者でも扱いやすい「Casual」なフルサイズ機として位置づけているのでしょう。同じEVFレスでもZ30やZRとは狙いが異なり、Z5IICは「初めてのフルサイズ写真機」という役割を担うモデルと考えると分かりやすくなります。
Nikon Z 30

結局、Z5IICは価格で評価が決まりそう
Z5IICでは、EVFやデュアルカードスロット、サブセレクター、高精細モニターなど、Z5IIに備わっていた装備がいくつも省かれています。一方で、センサーやAF、手ブレ補正、連写性能といった撮影の基本性能はZ5IIに近い水準を維持しています。初心者には必ずしも必要ではない装備を省きながら、中核となる性能を残したのは、やはり価格を抑えるためでしょう。
その結果、Z5IIより大幅に安く販売できるのであれば、Z5IICの存在意義は一気に分かりやすくなります。反対に価格差が小さければ、EVFや約210万ドットのモニター、デュアルSDカードスロット、サブセレクターを備えたZ5IIを選びたくなるユーザーは多いはずです。
特に重要なのが20万円前後という価格帯です。仮に国内価格が20万円を明確に下回れば、「最初の一台からフルサイズ」という提案にも現実味が出てきます。しかし21万円、22万円と上がり、Z5IIとの価格差が縮まれば、これだけ装備を省いた意味も薄れてしまいます。Z5IICはスペック以上に、最終的な国内価格が評価を大きく左右するカメラになりそうです。
まとめ
Z5IICは、Z5IIを単純に小型化したモデルでも、Z30をフルサイズ化した動画機でもありません。Z5IIに近い基本性能を残しながら、EVFや一部の操作系を省き、シーンモードやAUTOなどを充実させた「Casualなフルサイズ」と考えると、その立ち位置が分かりやすくなります。スマートフォンからAPS-Cを経由せず、最初から本格的なフルサイズ撮影へ進みたい人を強く意識したモデルなのでしょう。
一方、すでに複数台のカメラを所有し、ファインダー撮影やデュアルカード、高精細モニター、細かな操作性を求める中級者以上にとっては、Z5IICを積極的に選ぶ理由は多くありません。むしろZ5IIなどの上位モデルの方が自然です。Z5IICの役割は既存ユーザーの買い替え需要を狙うことより、これまでスマートフォンで撮影してきた新しい層をZマウントへ呼び込むことにあるように見えます。
だからこそ、Z5IICが売れることにはこの一台以上の意味があります。新しいユーザーがレンズを追加し、将来より上位のボディへ移行する流れが生まれれば、Zシステム全体が広がり、今後の中級機や上級機の発展にもつながるかもしれません。その入口として成功できるかどうかを左右する最大のポイントが価格です。削った装備に見合うだけの価格差をZ5IIとの間に作れるのか、日本での正式な価格発表に注目したいところです。

コメント