PENTAX K-3 IIは2015年に発売されたAPS-Cフラッグシップ機です。見た目は前作K-3とほぼ同じながら、「カメラの常識を覆す新機能」を搭載して風景写真家たちを驚愕させました。この記事ではK-3 IIの立ち位置を、ペンタックスの熱い系譜とともに徹底解説します。
K-7・K-5・K-3──ペンタックスの「熱量の系譜」
K-3 IIを理解するためには、その前身機たちがそれぞれ何に全力を注いだのかを知っておく必要があります。
K-7(2009年):ゼロからの大改革
メーカーとして最も「新しいものを作るぞ!」と最大の力を注いだのがK-7です。デザイン・ファインダー・シャッター機構・外装素材(マグネシウム合金)のすべてをゼロから設計し直し、ペンタックスのアイデンティティを確立しました。「高級感のある超小型ボディ」「視野率100%の極上ファインダー」「防塵・防滴・-10℃耐寒」という現代まで続くプレミアムな基準を作ったのがこのカメラです。往年の名機「ペンタックスLX」を意識した工芸品のような質感への挑戦で、開発コストは3機種の中で最も大きかったと言われています。
K-5(2010年):エンジニアの執念が生んだ「画質世界一」
K-7は優秀でしたが、センサー(高感度画質)に弱点がありました。ソニー製の高性能センサーを採用し、ペンタックスの画像処理エンジニアたちが限界を超えるノイズ処理アルゴリズムを開発。ISO 51200という当時驚異的な高感度を実現しました。
開発時にその画像を見た企画側が感動して開発チームに高級日本料理を振る舞ったという「寿司エピソード」が残るほどの、メーカー史上空前の本気チューニングです。当時のキヤノン・ニコンの上位機種を脅かすほどの仕上がりで、「画質で世界を驚かせたカメラ」として今も語り継がれています。
K-5 II / IIs(2012年):最後の弱点「AF」を完全克服
K-5で画質は世界トップクラスの評価を得ましたが、「暗所でのAFが迷う」という弱点が残っていました。これを克服するため、新型AFモジュール「SAFOX X」を開発・搭載。さらに当時まだ珍しかったローパスフィルターレスモデル(IIs)を並行発売し、コアな写真ファンを狂喜させました。
K-3(2013年):APS-Cの王者として他社フルサイズに挑む
「フルサイズの時代」という業界の流れに逆らい、「APS-Cの究極系を作る」という立ち位置で投入されました。2435万画素・27点AF・秒間8.3コマ連写・ダブルSDスロットを搭載。さらに世界初の「ローパスセレクター」(手ぶれ補正機構を使ってセンサーを微振動させ、ローパスフィルターあり・なしを1台で切り替える技術)を搭載し、カメラグランプリ「あなたが選ぶベストカメラ賞」を受賞しました。
K-3 IIの立ち位置:「風景・天体撮影の究極特化型フラッグシップ」
K-3 IIを一言で表すなら、「三脚を据えてじっくり撮るカメラマンにとっての神機であり、ペンタックスの変態的(最大級の褒め言葉)技術が頂点に達した超絶マイナーチェンジモデル」です。
世界を驚かせた「リアル・レゾリューション・システム(RRS)」
K-3 IIの最大の武器がRRS(リアル・レゾリューション・システム)です。K-3の「ローパスセレクター」で培ったセンサー精密制御技術をさらに極め、まったく別次元の機能として完成させました。
仕組みと革新性
通常のデジタルカメラは、1画素ごとに赤・緑・青(RGB)のいずれか1色しか記録できず、残りの色は計算(補間)で補っています。RRSはボディ内手ぶれ補正機構を応用してセンサーを1画素ずつ正確に動かしながら4枚を連続撮影し、すべての画素にRGB全色を100%取り込むことに成功しました。
結果として、画像サイズ(2435万画素)は変わらないまま、1画素あたりの色情報の純度が爆発的に向上。拡大時のディテールや色の濃密さが数百万円する中判デジタルカメラに迫るほどになりました。
OMシステムのハイレゾモードとの違い
OM SYSTEMの「ハイレゾショット」も同じ原理(センサーを動かして複数枚撮影・合成)ですが、目指した方向が異なります。
- OM SYSTEM:センサーを半画素ずつずらして画素数を4〜16倍に増やす。2000万画素で8000万画素相当を生成するダイナミックなアプローチ
- PENTAX RRS:画素数は増やさず、全画素に純粋なRGB情報を詰め込む職人的アプローチ。色の純化・濃密さに特化
「画素数を増やすOM」対「色の純度を極めるPENTAX」──同じ変態技術でも目指した方向が異なるのが面白いところです。
RRSの「色ズレ現象」──この機種だけの独特な個性
RRSには特有の現象があります。4回の撮影中に被写体の一部が動くと、その部分だけが赤・緑・青のドットが格子状に干渉し合う、サイケデリックなモザイク模様として記録されます。
OMのハイレゾが「動いた部分がぼんやり二重になる」という見慣れたブレ方をするのに対し、K-3 IIのRRSは仕組みが根本的に違います。1枚目=赤、2枚目=緑、3枚目=青と色ごとに順番に記録するため、動いた瞬間に「異なる場所の色」が混入し、この世に存在しない色のデジタルノイズとして現れます。OMがぼやけるとしたら、RRSは爆発します。
- 三脚固定された岩や建物 → 中判カメラに迫る超解像度
- 風でわずかに揺れた葉っぱ → 赤・緑・青が炸裂する虹色のモザイク
通常の写真では「ブレて終わり」の情報が、RRS写真では「どこが動いていたか」を色で可視化した地図として記録されます。これはK-3 IIのRRSならではの、他のいかなるカメラでも再現できない固有の現象です。
なお後継機(K-1・K-3 Mark IIIなど)では動体補正機能が追加され、動いた部分は自動的に通常撮影の1枚に差し替えられます。「虹色モザイク」が起きるのはK-3 IIだけです。
K-3(初代)との違い──ローパスセレクターからRRSへ
「K-3にはRRSがなかったの?」という疑問は自然です。結論から言うと、RRSはK-3 IIで初搭載です。ただしK-3(初代)には前身となる変態技術が搭載されていました。
| 機種 | 技術名 | センサーの動きと目的 |
|---|---|---|
| K-3(初代) | ローパスセレクター | センサーを微小に震わせて偽色・モアレを防ぐ。K-5 IIとK-5 IIsの2機種に分かれていた選択を1台で切り替え可能にした |
| K-3 II | リアル・レゾリューション(RRS) | 4回シャッターを切る間にセンサーを1画素ずつ正確にずらして静止させ、全画素にRGB全色を記録する |
K-3の段階では「センサーを細かく震わせる」ことまではできていましたが、「1ミクロン単位で完璧に制御して4回正確に移動させて止める」超精密制御と、4枚を瞬時に合成する処理エンジンのパワーがまだ足りていませんでした。2年後のK-3 IIでその技術が限界突破し、RRSが完成した流れです。
RRSのデータサイズは通常の約4倍
RRSで撮影したRAWデータは1枚で120〜130MB(通常の約4倍)になります。
- 4枚分のデータが1ファイルに入っているから:4回のシャッター全データが1つのRAWファイルにパックされて保存される
- 全画素に本物の色データが詰まっているから:通常写真は周囲のピクセルから補間するためデータが軽くなるが、RRSはすべての画素にRGB100%のリアルな色データが詰まっており情報密度が桁違い
2015年当時、32GBのSDカードに200枚ちょっとしか撮れず、書き込みに数秒かかり、パソコンでの表示も重い。そして撮影現場では液晶が小さくて気づけず、帰宅後に120MBの巨大データを展開した瞬間に「神がかりの超解像」か「サイケデリックな虹色」かが初めてわかる──というのがK-3 IIユーザーあるあるでした。
内蔵フラッシュを捨ててGPSを詰め込んだ「アストロトレーサー」
K-3 IIはカメラ内蔵のポップアップフラッシュを大胆に廃止し、そのスペースにGPSユニットを内蔵しました。これによりオプション機材なしでカメラ単体で星空追尾撮影ができます。
アストロトレーサーは地球の自転に合わせてセンサー自体が星の動きを追尾する機能です。高価な赤道儀(天体用の特殊三脚機材)がなくても、星を「点」として綺麗に長秒時撮影できます。星空・天の川撮影に出かけるカメラマンにとって、これだけでK-3 IIを選ぶ理由になりました。
その他の基本スペック
- 有効画素数:2,435万画素
- 防塵防滴:77箇所のシーリング、-10℃耐寒動作
- ボディ内手ぶれ補正:4.5段分(K-3比+1段)
- 流し撮り自動検知機能搭載
- 連写:最高約8.3コマ/秒
- AF:27点(中央9点クロスタイプ)
K-3 IIはどんな人に向いているか
- 三脚を据えて風景・建築・物撮りをじっくり撮る人:RRSの超解像が最大限発揮される
- 星空・天体撮影が好きな人:アストロトレーサーは唯一無二の武器
- ペンタックスの唯一無二の描写と操作感が好きな人:現代でも個性的な色再現
逆に、スポーツや野鳥など動体撮影がメインの場合はK-3(無印)や後継のK-3 Mark IIIのほうが適しています。
K-70以降の後継機でもRRSは搭載されている
RRSはK-3 IIのフラッグシップ機だけの機能ではありません。2016年発売のエントリー機K-70にもそのまま搭載されました。上位機種にしかなかった超高画質機能を入門クラスの価格帯に出し惜しみなく載せてきたことで、当時カメラファンの間で「ペンタックス、太っ腹すぎる」と話題になりました。
後継機では「動体補正モード」が追加された
K-70以降のRRS搭載機では、K-3 IIで起きていた色ズレ現象への対策として動体補正モード(オン/オフ切り替え)が追加されています。オンにすると、カメラが動いていると判断した部分を自動的に通常の1枚撮りで補完するため、あの虹色モザイクが起きにくくなり実用性が大幅に向上しました。
動体補正をオフにすればK-3 IIと同じ現象が起きる
仕組みは同じため、後継機でも動体補正を「オフ」に設定して風に揺れる草木などを撮影すれば、K-3 IIと同様の色分離現象が発生します。K-3 IIが「動体補正なし」がデフォルトだったのに対し、後継機は「補正あり」がデフォルトになっただけで、RRSの根本的な仕組みは変わっていません。
K-3 IIが「制御しきれない面白さ」をデフォルトで持っていたのに対し、後継機はその面白さを意図的に引き出す設定が必要になった、という変化です。
まとめ
PENTAX K-3 IIは「RRS+GPS内蔵アストロトレーサー」という、他のいかなるカメラにもない尖った機能を持った特化型フラッグシップです。K-7からK-5・K-3と積み上げてきたペンタックスの技術的な執念が、K-3 IIでひとつの頂点を迎えました。
「完璧に静止した世界を、中判カメラに迫る解像感で撮る」というシーンに限れば、2015年の発売当時、世界のどのAPS-C機もK-3 IIの右には立てませんでした。ペンタックスらしい「尖ったこだわり」と「変態技術」が爆発した名機として、今もなお語り継がれています。


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